ふたごはたいてい区別がつかない

小学2年生の頃、好きな子をふたごの子と間違えた苦い思い出

分数の計算規則って奇抜だとおもいません?

はい、こんにちは.ひさしぶりのブログ更新です.

今日話す内容はタイトルのとおり、分数の計算規則について考えたいと思います.
近年のパワーワードのひとつに「分数ができない大学生」というのがあります.大学生で分数ができないのはやべえだろと思う反面、一見奇抜な分数の計算規則は理解しづらいとも思います.
ということで、分数の計算規則からその計算規則がなぜうまくいくのかについて話します.

分数の性質

分数の規則を思い出しましょう.まずは具体例から、みなさんご存知のとおり
\frac{1}{2}=\frac{2}{4}が成立します.
ここの式に隠れた規則性とは何でしょうか?正解は(左辺の分母\times右辺の分子)=(左辺の分子\times右辺の分母)が成り立つことです.
この規則は全ての分数で成り立ちます.そこで、分数の和と積を定義するときもこの規則が保存されるように定義したいのです.
それでは、和と積の定義が本当にそのようになっているのか見てみましょう.
ちゃんと定義できていることを数学の用語でwell-definedと言います.
例 \frac{1}{4}+\frac{3}{5}=\frac{17}{20}であるが、両辺に20(=4\times5)をかけてみよう.(\frac{1}{4}+\frac{3}{5})\times20=\frac{17}{20}\times4\times5として計算すると、5+12=17となる.*1
\frac{1}{4}\times\frac{3}{5}=\frac{3}{20}であるが、両辺20(=4\times5)倍すると1\times3=3
ちゃんと満たしていますね.

分数の定義(少し厳密な話)

分数を定義します. a,c\in \mathbb{Z},b,d\in \mathbb{Z} \backslash{0}に対して、←(なんか{0}ってかけへんかった)
関係(a,b)~(c,d)ad=bcで定義する. *2
このとき、関係~は同値関係となる.\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}\backslash{0}を~で割ったもの、すなわち(\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}\backslash{0})/~が分数全体の集合\mathbb{Q}である.

上の話でどのようなことをやっていたか日本語で言うと、約分して同じ形の分数に書ける奴らはみんな同じものとみなす!と決めたのである.

分数の演算を厳密に定義しよう

それでは、分数の演算を定義しよう.上の分数の定義において「同じ仲間」という概念を導入した.ここで同じ仲間の中の代表者を取る.数字を使って言うならば\frac{1}{2}=\frac{2}{4}=\frac{3}{6}=\cdot\cdot\cdotであるが、どれを考えても同じなので、とりあえず0.5という有理数を代表して表す分数として\frac{1}{2}を選ぶというノリである.ここでこの代表者のことを代表元と呼ぶ.全ての代表元を集めてできた集合を完全代表系という.ここでは、(a,b)の同値類を\frac{a}{b}と書く.
それでは、分数の演算を定義しよう.二つの代表元をとる.それを\frac{a}{b}\frac{c}{d}とする.
この二つの和を以下で定義する
\frac{a}{b}+\frac{c}{d}:=\frac{ad+bc}{bd}
二つの積は以下で定義する.
\frac{a}{b}\times\frac{c}{d}:=\frac{ac}{bd}
この和積の定義がwell-definedであることは簡単に確かめられる.*3

整数から分数の作り方から学ぶ一般化

上にて、\mathbb{Z}から\mathbb{Q}を作ったがこれがどういうことをしたのかを考察してみよう.

つっこんで考えるために、以下でを定義する.
Def:環(ring)とは和と積の演算を持ち、以下の7つ(8つ)の公理を満たす集合のことである.以下環をRと書く (1) \exists a\in R,\forall b\in R,a+b=0 (加法単位元0の存在.このようなaを0と書く.)
(2)\forall a\in R, a+0=0+a=a (0の性質)
(3)\forall a,b,c \in R,(a+b)+c=a+(b+c) (結合法則という.)
(4)\forall a,b \in R,a+b=b+a (交換法則)
(5)\exists a\in R,\forall b\in R, a\times b=b\times a=a (乗法単位元の存在.このようなaを1と書く.)
(6)\forall a,b,c \in R,(a\times b)\times c=a\times (b\times c) (結合法則)
(7)\forall a,b,c\in R,a\times (b+c)=a\times b+a\times c,(a+b)\times c=a\times c+b\times c (分配法則)
(8)\forall a,b\in R,a\times b=b\times a (交換法則)

(1)~(7)を満たす集合をといい、(8)も仮定すると可換環という.
ここで気づいた方もいるかもしれないが、環というのは加法逆元の存在は仮定するものの、乗法逆元の存在は仮定しないのである.*4

(可換)環の具体例は\mathbb{Z}である.上の8つの公理が満たされていることは各自で確かめてみよう.
\mathbb{Z}に乗法単位元がないことはすぐ分かるであろう.例えば2に対して掛け合わせると1になるものは整数の中では存在しない.しかし、\mathbb{Q}の中には存在する.2に対して\frac{1}{2}が存在するからだ.
つまり、\mathbb{Z}から\mathbb{Q}を作った作業は、乗法逆元が存在するように\mathbb{Z}を拡大した.と考えることができる.

任意の環は、一部の元に対して乗法逆元が存在するように拡大することができる.これを環の局所化という.\mathbb{Z}\mathbb{Z}\backslash{0}での局所化により0以外の任意の元は乗法逆元を持つ.これが\mathbb{Q}の厳密な定義である.

勘のいい人は、環を拡大して乗法逆元を作る作業をなぜ局所化というのか疑問に持つことであろう.*5じつは見方を少し変えると局所的なことをしているのだが、今回はここまでにしよう.

*1:結果的には当たり前の式だが、上で確認した分数の規則を満たすように演算が定義できている

*2:関係ってなんやねん!と突っ込まれそうではあるが、ここで言っている関係というのは「同じ仲間」という意味と捕らえていただいてかまわない

*3:書くのがめんどくさい.数学書の筆者の気持ちは書くことによって理解できる.

*4:掛け合わせて1になる元が必ずしもあるとは限らない

*5:代数幾何学で局所化は大切な概念である