ふたごはたいてい区別がつかない

小学2年生の頃、好きな子をふたごの子と間違えた苦い思い出

円周率とはなにか。円周率の再定義と図形的定義との一致

はい、こんにちは.
先日、中高生に「円周率ってなに?」と尋ねると、「3.1415...」と数字の羅列をされてしまった.不正解ではないのだが、円周率の意味を答えてほしかった旨を伝えると、「わからないです」と言われてしまった.僕が求めていた回答は「円の直径と円周の比」である.
このような状況なのであれば、2003年に東京大学の入学試験に「円周率が3.05より大きいことを示せ」という問題が出されるのもうなずける.

今回のテーマは円周率についてである.今回の目標は、円周率を「円の直径と円周の比」という幾何的な考察から離れ、解析的なものとして定義し、その定義がわれわれの知っている「円の直径と円周の比」に一致していることを示すことである.
(この話を読むにあたり仮定する知識は、高等学校における数学3程度である。多少その域を超えることもあるが、読み飛ばしてもいいレベルである.)

指数関数について

Def.1

指数関数\exp :\mathbb{C} \to \mathbb{C}とは

\exp{z}=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} z^{n}       (z\in \mathbb{C})


である.ちなみに、この級数の収束半径が\inftyであることは\lim_{n \to \infty} \frac{a_{n+1}}{a_{n}}=0より分かる.

Def.2

関数C:\mathbb{R} \to \mathbb{R}S:\mathbb{R} \to \mathbb{R}を以下で定める.

C(x):=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{(2n)!} x^{2n}S(x):=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{(2n+1)!} x^{2n+1} (x \in \mathbb{R})

で定義する.(もちろんこれは、結果的には\sin、\cosのtaylor展開なのだが、今の議論だけでは C、S\sin、\cosと一致しているかはわからない.)
ここから、かの有名な

\exp(ix)=C(x)+iS(x)

がわかる.
また\exp(x+y)=\exp(x) \exp(y)(加法定理)や\exp{(\pm x)}=C(x)\pm iS(x)\exp{(0)}=1(\exp{x})'=i\exp{x}はすぐに確かめられる.

これらを用いて円周率を定義していく.

Prop.1

任意のx\in \mathbb{R}に対してC(x)^{2}+S(x)^{2}=1が成り立つ.

Proof of Prop.1

1=\exp(0)=\exp(x-x)=\exp(x)\exp(-x)=C(x)^{2}+S(x)^{2}

Prop.2

任意のx\in \mathbb{R}に対して|C(x)|\leq 1,|S(x)|\leq 1が成り立つ.

Proof of Prop.2

C(x)^{2}=1-S(x)^{2}\geq0

\piの定義

Prop.3

C(x)は開区間(0,\sqrt{3})の中にただひとつの零点を持つ.

Proof of Prop.3

書くの疲れました.がんばって示してください.(outline of proof:C(x)(0,\sqrt{3})で狭義単調減少かつC(0)\geq0,C(\sqrt{3})\leq0より中間値の定理による.)

Def.3

上の零点をx_{0}として、\pi:=2x_{0}を円周率という.

この\piの定義は図形的な\piの定義と一致するらしい.

Prop.4

半径R(>0)の円の円周の長さは2\pi Rに等しい.

Outline of Prop4

半径Rの円周の第一象限の弧長Lについて、4L=2\pi Rを示す.
円周の第一象限の部分はS(t)=(RC(x),RS(x))とパラメータ表示できる.(ほんとに?→できる!確かめよ)
[0,\frac{\pi}{2}]のN個の分割\Deltaに対して、|\Delta |=\max_{1 \leq  j \leq N} (t_{j}-t_{j-1})l_{\Delta}=\sum_{j=1}^{N} ||S(t_{j})-S(t_{j-1})||とすると、L=\lim_{|\Delta | \to 0} l_{\Delta}である.また、\xi_{j}=t_{j}-t_{j-1}とおくと、\sum_{j=1}^{N} \xi_{j} =t_{N}-t_{0}=\frac{\pi}{2}
ここからごちゃごちゃ計算することにより

(1-\frac{|\Delta|^{2}}{24})\frac{\pi R}{2} \leq l\_{\Delta } \leq \frac{\pi R}{2}

が成り立つので、|\Delta| \to 0として、L=:\frac{\pi R}{2}、つまり、4L=2\pi Rを得る.

まとめ

これにて、\piの再定義と、これが図形的定義と一致していることが示された.
まあこれを読んだ人は、で?って思ってしまうことだろう.ここで述べたかったことは、厳密に議論するためには厳密な定義からはじめないといけないと言うことだ.ただ、数学が全て厳密な定義からのみ発展していく学問であるというのは間違いでもある.

ところで、本当に数学ができる人というのは、上の議論のような当たり前の議論ができる人のことではない.高度な議論に精通しようと、厳密な論理的思考を持とうとも、初等整数論や初等幾何などによって培われるセンスを持たなければ、飛べない鳥になってしまう.
飛べる鳥になりてえなあ;;;;

参考文献 杉浦光夫 解析入門Ⅰ(東京大学出版会
     W.Rudin The Principles of Mathematical Analysis
     高木貞治 解析概論 (岩波書店